2025年6月
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歯科医が解説!歯が動く時の骨の変化
歯列矯正治療で歯が動く際、私たちの目には見えない歯槽骨の中では、ダイナミックな生物学的変化が起きています。この変化の主役は、歯と歯槽骨の間にある「歯根膜」という線維性の組織です。矯正装置によって歯に力が加えられると、歯根膜内の血管が圧迫されたり拡張したりし、様々な化学伝達物質が放出されます。これが引き金となり、骨の改造(リモデリング)が始まります。歯が移動する方向の歯根膜は圧迫を受け、ここでは「破骨細胞」という細胞が活性化します。破骨細胞は、文字通り骨を溶かす(吸収する)働きを持ち、歯が動くためのスペースを作り出します。一方、歯が移動するのと反対側の歯根膜は引っ張られ、ここでは「骨芽細胞」という細胞が活性化します。骨芽細胞は新しい骨を作る(添加する)働きを持ち、歯が移動した後の隙間を埋めて、歯を新しい位置で安定させます。この「骨吸収」と「骨添加」という一連のプロセスが、歯の移動方向に沿って連続的に起こることで、歯は硬い骨の中を少しずつ移動していくのです。この骨のリモデリングは、非常に精密にコントロールされた生体反応であり、過度な力を加えると歯根膜にダメージを与えたり、歯根が短くなってしまう「歯根吸収」を引き起こしたりする可能性があります。そのため、私たち歯科医師は、個々の患者さんの状態に合わせて適切な力を加え、定期的に歯の動きや骨の状態をチェックしながら、安全かつ効率的に治療を進めるように努めています。