歯列矯正治療において、知覚過敏は比較的起こりやすい症状の一つです。これは、歯を動かすという治療の特性上、ある程度はやむを得ない側面もあります。歯が矯正力によって移動する際、歯の根の周囲の組織には炎症反応が生じ、これが一時的に神経を過敏にさせることがあります。また、歯の位置が変わることで、これまで歯茎に隠れていた歯の根元部分が露出し、象牙質が直接刺激を受けるようになることも知覚過敏を引き起こす要因です。特に、成人矯正の場合、加齢などにより元々歯肉が下がり気味の方もおられ、そういったケースではより注意が必要となります。私たち歯科医師は、矯正治療を開始する前に、患者さんの口腔内の状態を詳細に診査し、知覚過敏のリスクを評価します。そして、可能な限りリスクを低減するための対策を講じます。例えば、過度な力をかけないよう慎重に装置を調整したり、歯の移動様式を工夫したりします。治療中に知覚過敏の症状が現れた場合には、まずその原因を特定し、症状の程度に応じて適切な処置を行います。軽度であれば、知覚過敏抑制効果のある歯磨剤の使用や、フッ化物の塗布で改善することが多いです。症状が強い場合には、象牙質表面を保護するコーティング剤を塗布したり、レーザー治療を行ったりすることもあります。大切なのは、患者さんご自身が初期の段階で症状を我慢せず、速やかに私たちに伝えていただくことです。早期に対応することで、症状の悪化を防ぎ、より快適に矯正治療を進めることができます。