歯列矯正で歯が動く仕組みとは?なぜ痛む?
歯列矯正治療によって硬い歯が動くという現象は、一見すると不思議に思えるかもしれません。しかし、これには骨の代謝という巧妙な生体反応が関わっているのです。歯は、歯槽骨という顎の骨の中に、歯根膜という薄いクッションのような組織を介して植わっているのをご存じでしょうか。矯正装置によって歯に持続的な力が加わると、歯が動く方向の歯根膜は圧迫され、反対側は引っ張られます。この刺激に反応して、圧迫された側の骨は「破骨細胞」という細胞の働きによって吸収され(骨が溶ける)、引っ張られた側の骨は「骨芽細胞」という細胞の働きによって新しい骨が作られるのです(骨ができる)。この骨の吸収と添加が繰り返されることで、歯は少しずつ骨の中を移動していくのです。この骨の代謝は、非常にゆっくりとしたプロセスであり、1ヶ月に歯が動く距離は通常0.5mmから1mm程度と言われています。矯正治療中に感じる痛みや違和感は、主にこの歯根膜に炎症が起きたり、歯の神経が一時的に過敏になったりすることによるものだと言えるでしょう。特に、装置を装着した直後や、ワイヤーを調整して力を加えた後の数日間は、噛んだ時に痛みを感じやすい傾向があります。しかし、この痛みは歯が正常に動いている証拠でもあり、通常は数日から1週間程度で落ち着いてきます。このような、歯が動くメカニズムを理解することで、矯正治療中の不快感や不安が少しは和らぐかもしれません。