なぜ歯列矯正で知覚過敏が起こるのか
歯列矯正治療中に多くの人が経験する知覚過敏。この現象の背景には、歯の構造と歯が動くメカニズムが深く関わっています。私たちの歯は、一番外側を硬いエナメル質で覆われていますが、その内側には象牙質という組織があり、さらにその中心部には歯髄(神経や血管)が存在します。象牙質には象牙細管と呼ばれる無数の細い管が歯髄に向かって伸びており、通常はエナメル質や歯肉によって保護されています。しかし、歯列矯正によって歯に持続的な力が加わると、歯は骨の中を少しずつ移動していきます。この移動の過程で、歯の根の周囲にある歯根膜というクッションのような組織が圧迫されたり引っ張られたりし、炎症反応が起こります。この炎症が歯髄を刺激し、神経が過敏な状態になることがあります。これが、矯正治療初期や装置調整後に一時的に歯がしみやすくなる主な理由の一つです。また、歯が移動したり、歯周組織の状態によっては、歯肉がわずかに下がり、これまで覆われていた歯の根の部分(セメント質や象牙質)が露出することがあります。エナメル質に比べてセメント質や象牙質は薄く、刺激が象牙細管を通じて内部の神経に伝わりやすいため、冷たいものや歯ブラシの接触などで「キーン」とした痛みを感じやすくなるのです。特に、元々歯肉が薄い方や、歯周病の既往がある方は、歯肉退縮が起こりやすく、知覚過敏のリスクが高まる傾向にあります。矯正治療による知覚過敏は、多くの場合一過性のものであり、適切なケアや歯科医師による処置でコントロール可能ですが、そのメカニズムを理解しておくことは、不安の軽減にも繋がるでしょう。