歯列矯正治療中に、患者さん自身が毎日取り外しを行う小さなゴム、それが「顎間ゴム(がっかんごむ)」または「エラスティックゴム」です。この小さなゴムが、実は上下の歯の噛み合わせを整えたり、特定の歯を目的の方向に動かしたりするために、非常に重要な役割を果たしています。顎間ゴムは、主に上下の顎の異なる位置にあるブラケットのフックや、ワイヤーに直接引っ掛けて使用します。ゴムの伸縮性を利用して、持続的な弱い力を歯に加えることで、歯を移動させたり、噛み合わせを緊密にしたりするのです。例えば、上の歯と下の歯の間にゴムを斜めに掛けることで、出っ歯や受け口、あるいは開咬(前歯が噛み合わない状態)といった不正咬合を改善するのに役立ちます。ゴムの種類(太さや強さ)や掛ける位置、掛ける時間は、治療の目的や患者さんの状態によって歯科医師が細かく指示します。一般的には、食事と歯磨きの時以外は、就寝中も含めて1日20時間以上の装着が必要とされることが多いです。この顎間ゴムのしくみは、テコの原理に似ています。ゴムが縮もうとする力が、連結された歯を引っ張り合い、それぞれの歯を計画された方向へと導きます。例えば、上の犬歯と下の第一大臼歯にゴムを掛ければ、上の犬歯を後方に、下の第一大臼歯を前方に移動させる力が働きます。これにより、上下の歯列全体の前後的なズレを修正したり、歯と歯の間の隙間を閉じたりすることが可能になります。顎間ゴムの効果を最大限に引き出すためには、患者さん自身の協力が不可欠です。指示された通りにゴムを装着しなかったり、装着時間が短かったりすると、計画通りに歯が動かず、治療期間が延長したり、期待した治療結果が得られなかったりする可能性があります。逆に、真面目にコツコツとゴムを使用することで、治療がスムーズに進み、より良い噛み合わせを獲得することができます。小さなゴムですが、その効果は絶大であり、患者さんと歯科医師が二人三脚で治療を進める上で、非常に重要なツールと言えるでしょう。
顎間ゴムの役割とは?歯列矯正における上下の歯を動かすしくみ