歯列矯正を始めて数ヶ月。ふと、指で前歯に触れてみると、以前より少しグラグラと揺れる気がする…。「もしかして、歯が抜けてしまうんじゃないか」そんな不安に襲われた経験はありませんか。ご安心ください。矯正治療中に歯が一時的に揺れやすくなるのは、多くの場合、歯が正常に動いている証拠であり、全く心配のない現象です。この不安を解消するために、歯が動く仕組みを理解しておきましょう。歯は、顎の骨の中に直接埋まっているわけではなく、「歯根膜」という薄いクッションのような組織を介して支えられています。この歯根膜には、骨を溶かす細胞(破骨細胞)や、骨を作る細胞(骨芽細胞)を呼び覚ますセンサーのような役割があります。矯正装置によって歯に持続的な力がかかると、歯が動いていく方向の歯根膜が圧迫されます。すると、その信号を受け取って破骨細胞が集まり、骨を溶かし始めます。逆に、反対側の引っ張られる側の歯根膜では、骨芽細胞が新しい骨を作り、できたスペースを埋めていきます。この「骨を溶かして、作る」というサイクルを繰り返すことで、歯は少しずつ骨の中を移動していくのです。つまり、歯が動いている最中は、歯の周りの骨が一時的に柔らかく、不安定な状態になっていると言えます。そのため、歯が以前よりも少し動揺しやすくなるのは、至極当然の生理現象なのです。特に、歯根が一本で動きやすい前歯は、そのグラつきを感じやすい傾向があります。このグラつきは、治療が進み、歯が最終的な位置に落ち着いて周りの骨が固まってくれば、自然と収まっていきます。ただし、もしグラつきと共に強い痛みがあったり、明らかに異常な揺れ方を感じたりした場合は、何らかのトラブルの可能性もゼロではありません。例えば、矯正力が強すぎたり、無意識の歯ぎしりや食いしばりで過度な負担がかかっていたりするケースです。そんな時は、自己判断せずに、すぐに担当の歯科医師に相談してください。矯正中の歯のグラつきは、多くの場合、あなたの歯が理想の場所へと旅をしている証。不安に思うよりも、「頑張って動いてくれているんだな」と、前向きに捉えてみましょう。