「歯列矯正は整形の一種なの?」という疑問は、多くの方が一度は抱くかもしれません。確かに、歯列矯正治療によって歯並びが整い、口元の印象が大きく変わることで、顔全体の雰囲気まで変化することがあります。その劇的な変化から、美容整形と比較されることも少なくありません。しかし、歯列矯正と美容整形は、その目的と手段において根本的な違いがあります。美容整形は、一般的に、容姿をより美しくすることを主目的とし、メスを用いた外科的な手術やヒアルロン酸注射などの処置によって、顔のパーツの形を変えたり、シワを取ったりする医療行為を指します。一方、歯列矯正は、不正な歯並びや噛み合わせ(不正咬合)を改善し、正しい噛み合わせと美しい歯列を獲得することを目的とした歯科治療です。もちろん、審美的な改善も大きな目的の一つではありますが、それ以上に重要なのは、咀嚼機能の回復、発音の改善、虫歯や歯周病リスクの軽減といった「機能面」と「健康面」の向上です。歯列矯正では、歯に持続的な力を加えることで、歯を支える骨の代謝(リモデリング)を利用して歯を移動させます。これは、体の自然な治癒能力や適応能力を活かした治療法であり、美容整形のように組織を直接切除したり、異物を注入したりするのとは異なります。ただし、歯並び、特に前歯の位置や傾きは、唇の形や口元の突出感、さらには鼻から顎にかけてのEライン(エステティックライン)といった顔貌のバランスに大きな影響を与えます。そのため、歯列矯正によってこれらの要素が改善されると、結果として顔の印象が大きく変わり、「まるで整形したみたい」と感じられることがあるのです。特に、著しい出っ歯や受け口、あるいは重度の叢生(ガタガタの歯並び)などが劇的に改善された場合、その変化は顕著でしょう。このように、歯列矯正は「見た目を変える効果」という点では美容整形と共通する側面を持ちますが、その本質はあくまで不正咬合を治療し、口腔機能と健康を回復・増進させるための「医療行為」であるということを理解しておくことが大切です。